社会的包摂 ~新たな社会保障の方向性~
社会保障の大きな目的の一つは、「貧困」 に陥る危険を予防し、貧困からの脱却を支援することにある
「貧困」 は、所得水準が低いなど金銭的・物質的な資源の欠如を表す概念であり、今日においても物質的な貧困の解消は重要な課題
近年、ヨーロッパ諸国では、従来の貧困の概念をより広くとらえ深く掘り下げた 「社会的排除」 (social exclusion) という概念が、社会政策の考え方の主流となりつつある
この社会的排除という概念は、従来の貧困の考え方をより革新し、資源の不足そのものだけを問題視するのではなく、その資源の不足をきっかけに、徐々に、社会における仕組みから脱落し、人間関係が希薄になり、社会の一員としての存在価値を奪われていくことを問題視するもの
社会の中心から、外へ外へと追い出され社会の周縁に押しやられるという意味で、「社会的排除」 という言葉が用いられている
一言で言えば、社会的排除は、人と人、人と社会との関係に着目した概念である
多くの人々は、家庭、地域社会、または企業が提供する労働市場のそれぞれ、もしくはいずれかに、自分の「居場所」と「役割」を見出すことで、社会生活に参加し、お互いの存在意義を認め合い尊重する中で、自立して生活している
ところが、近年、社会的つながりの希薄化を背景に、社会に「居場所」と「役割」がなく、貧困や失業といった生活上の困難に遭遇した場合に、社会との接触が途絶え、その後も社会から隔絶された状態に陥りやすいという問題を生んでいる
「社会的包摂」 は 「社会的排除」 の解消を表す言葉
貧困や失業など様々な事情を背景に、社会から結果的に排除されている人々の他者とのつながりを回復し、社会の相互的な関係性の中に引き入れていこうという考え方
そのためには、家庭、地域社会、職場の機能を再生することに加え、様々な領域にわたる問題が複雑に絡んで自分の力のみでは必要な支援策にたどり着くことが困難な人に対しては、その方の抱える問題を全体的・構造的に把握した上で、当事者本位の個別的、継続的、包括的な支援を行う仕組みを構築することが重要
社会的包摂政策をいち早く打ち出した EU 諸国において、社会的包摂を促す政策の最大の柱は雇用政策
EU諸国では、現代社会において、個人が他者とつながり、自分の価値を発揮する最たる手段が就労だと理解されているため
参考文献
平成 24 年版厚生労働白書 -社会保障を考える-